ポール・ラスター氏による「冬季グループ展 第2部」クリティークセッション|2018/1/18

ポール・ラスター氏による「冬季グループ展 第2部」クリティークセッション|2018/1/18

2018年1月18日(木)、ニューヨークを拠点に活動するライター、インデペンデント・キュレーター、編集者、アーティスト、講演者の肩書を持つポール・ラスター氏によるアート・クリティークのセッションがOnishi Project企画の『冬季グループ展第2部』に参加した作家を対象に大西ギャラリーで行われました。

今回は本プロジェクトの第2回目のセッションになり、ラスター氏は多様なカテゴリーの アート作品を集めた多文化のグループの数多くのアート作品を一点一点自身の解釈と評価により解説しました。Onishi Projectでは、新進アーティストの海外での作家活動のサポートを目的に、海外のアート業界のプロである批評家によるアート作品の批評会の場を提供します。

『冬季グループ展第2部』は日本、アフリカ、ドイツ、アメリカから7名のアーティストが参加し、キャンバスと紙を使ったミクストメディア作品、異なる方法で撮られた写真作品、樹脂を使った彫刻作品などで構成されました。

ポール・ラスター氏によるそれぞれの作品、アーティストに対するクリティークを以下に記載します。

アーティスト:バービー・スタットマン(アメリカ出身)

バービーの複雑に入り組んだマルチメディアプリントを見た時、ラスター氏は神話から得るインスピレーションと情熱を作品から感じた。その場に立ち会った作家は、神学に対する興味と、本展の出品作品のテーマにもなっているマンガやアニメからの影響を語った。「ウィ・ワー・ゼア・トゥー」の作品では、ラスター氏は船の帆から浮き出ているいくつもの顔は幻想的なタッチになっていて、それは見る者をはっと驚かせ、作家が作品の隅々まで細部にわたり描き出す複雑なイラストレーションのタッチに視線を持って行く働きをすると言う。多くの異なる文化や時代背景を参考に、彼女が最も夢中になるものを描くことは、バービーの人生の核となる部分だ。アニメーションからイラストレーションに転向したバービーは、インクと羽ペンを用い羽ペンの先端を使いドローイングし、それをスキャンし、色と質感をデジタル方式で加える作業で作品を制作する。
ソフトウェアを用いることにより、単調な色に強さを与え、作品の線に重みを加える。彼女はタトゥーアートに大きな影響を受ける。それは「ストレンジャー・ローズ」という作品に特にはっきりと現れている。

アーティスト:ナマイザワクリス(日本出身)

昨年もOnishi Projectに参加したナマイザワクリスはデコラージュ作品の新シリーズ「ポップ・カモフラージュ」を発表した。色々な形にカットされた木のパネルに反転になった新聞の見出しを貼り付けアクリルペイントで塗られた作品の前に立ったラスター氏は、「作品は何も言わずに見る者に話しかけている。新聞の文字を反転して読めないようにしているところが気に入った。作品は見る者に向かって叫んでいるが、特に何か言っているわけではない。メディアの世界のように」と語る。それぞれの作品の木のジグソーパズルは特定の形ではなく、意味も持ち合わせていない。ゆえに、見る者に自由な解釈を与えている。また、それぞれの作品に共通して作品の部分が刳り貫かれ、後ろの壁が見える様子は効果的で、それは作品にもう一つ別の要素を加えていると話す。「パズルのようだ、抽象的なパズルだ」とラスター氏は言う。作品におけるカモフラージュというテーマは軍隊を思い浮かばせるが、アンディ・ウォーホルの「ポップ・センス・オブ・カモフラージュ」という作品も思い出す。カモフラージュにはネガティブな意味もあるが、ラスター氏は彼の作品からネガティブな感覚は受けない。受けるとしたら、ネガティブをポジティブなものに作り変えるパワーだろうと語った。

アーティスト:アダム・コリバリー(アフリカ出身)

独学でアートを学んだアダム・コリバリーのインパクトのある線を用いたミクストメディア作品は全て手描きである。ラスター氏はこの作家の正確なラインに感心し、何かの工具やマスキングテープなどを使って描いている様だと言い、「セーブ・ザイ・テレ」という作品については、地球と人間(内に秘めている本当の自分)が描かれ、人間を観察している様でもあり、とある作家の自画像の様でもあると語る。「水晶玉の様に見える球体の周りに散在しているひび割れは、我々が地球を守らないといけないという警告のメッセージを込めている。地球は我々に与えられた贈り物だ」とアダムは言う。今回の展覧会で展示している彼の他の2作品「ビウィルダー・クリスタル・アイズ」と「ラ・ヴィエ・ヒット・トゥワイス」は、人間の姿を表現しているのではなく、銀河宇宙やマンダラの様な抽象的な世界観を表現しているのだろうとラスター氏は言う。これらの抽象的な作品の中には作家の苦闘が現れている。アダム自身、戦争で生き残った者であり、自身の感情を表現し世界を見る術はアート作品の制作しかなかった。ラスター氏は「ビウィルダー・クリスタル・アイズ」という作品のイメージが反復される構成をとても気に入っていて、目にとても心地良い効果をもたらすと語った。

アーティスト:青木 弘(日本出身)

ラスター氏は、青木の写真の形態の中に、他の時代の写真作品を見ている様なシュールレアリスム的な感覚を覚えた。多重露光を使いレイヤーを重ねる技法は、作品に超現実的な性質を加える。曝け出された状態、また部分的に見え隠れする裸体は、複数の重なったレイヤーの中の空間で、吊るされた電球や流れ落ちる雨のしずくの前方に見えたり、後方に押しやられたりする。これらはとても人を引き付ける作品のシリーズだとラスター氏は言う。女性の顔に光が当たっている作品から今回の展示作品「ポルノグラフィティ」が始まっているのがいい。光が線状に女性の顔に当たっている状態は、女性が地下にいて地上からの光を受けているようにも見える。また、雨のしずくや窓の水滴はその女性が都会の環境と融合している感覚を生み出す。青木は作品の中で過去から何かを創り出そうとしている。彼の作品は全くポルノグラフィックではないのにも関わらず、「ポルノグラフィ」というタイトルを用いているところが興味深い。このシリーズ#3の作品に関しては、
被写体の顔があいまいで二つの性質を持ち合わせているように見える一方で、近くで見ると、顔のそれぞれの側に別の二人の女性の裸体があるように見える。中央で倒れている人の姿を凝視する。見る者の記憶に残る不気味な悪夢のような感じを作品から受ける。その感覚こそ作家が表現したいもので、それは絶望や苦しみであるが、同時に希望でもある。

アーティスト:福本 久人(日本出身)

自然の美しさや救済の力から大きく影響を受ける福本久人の作品は、生物界で起きている事を抽象的に表現する。自然を抽象的に解釈した作品「イマジン・ツリー12」と「イマジン・ツリー13」は、瞑想の行為から創られたのであろう。彼は見る者に「汚れのない土地に変わったしかし美しい木が生えている」と想像して欲しいのかもしれない。その土地とは、まるで啓発に触れようとしている心の中にある場所の様だ。これらの2点のミクストメディアの小作品はとても絵画的だ。お互いが持っていないものを補塡し合う様に、正反対の感情を互いに与え合っている、とラスター氏は語る。この作家は木を象徴する形の縦長の長方形の紙を用いている。それには枝や葉はなく、まるで木のオーラを受け入れている様だ。それぞれの作品は特徴的であり、作品の中に見る者を誘い込む様な魅力的な空間を作っている。見る者に、作品の表面を越えて中に入り込むことが可能だという様な感覚を与える。福本の「リメンバランス」という作品は大作であり作品の表面の質感が面白い。沈みかけている太陽が架空の平原に接している描写は、したたった赤色のペイントの流れや、はっきりとした緑色と黄色のペイントが作品全体を埋め尽くしていることによって強調されている。作品の下方の「地平線」の部分に加えられたザラザラの質感は、どこか遠く離れた場所にある詩趣に富む砂に覆われた平野の様に見えるとラスター氏は言う。

アーティスト:ジェームズ・ワッツ(アメリカ出身)

ジェームズ・ワッツの今回の出展作品は、初めて展覧会で披露する写真作品のシリーズである。作品の過程はとても印象的で、とても小さいデッサンから始まり、それに手を加えて形を造り出していく。とても小さい何かから大きいものを創り出すという行為は、顕微鏡を通して何かを見ることに似た感覚があり、それは進化の課程を経験する様でもあるとラスター氏は言う。3点全ての作品において、動きや動作の時間と空間の観念がある。作品の見せ方についてもラスター氏は気に入っている。写真処理の様に見えるが、実はラボでアルミニウムの上でプリントされている。これらの作品は1年前から制作し始めたと言う。通常は彫刻作品を制作しているのだが、今回の作品で使っている技術によって、今まで探し求めていた、欠けていた何かを与えられたとジェームズは言う。骸骨やゴーストのイメージを連想させる「ワウンド」という作品の中の被写体は、水に沈んでいる様でもあり、琥珀に閉じ込められている様にも見える。天体の一面にいる様な感覚も受ける。もちろんそれは見る者の解釈に委ねられる。なぜなら見る者の解釈は、作家の心の中にあるドローイングをデジタル化した作品を通して見る事から生まれるからだ。

アーティスト:シルケ・ナシュケ(ドイツ出身)

シルケの多次元の作品は、彼女の好奇心や多くの素材を試すことから生まれている。今回展示されている彼女の「トゥー・フェース(二つの顔)」というシリーズ作品は、エポキシ樹脂のシートを型に入れて形成し、ペイントし、そしてそれを鏡が付いた木製の箱に固定している。見る者が作品の周りを動くと、視界は鏡に映る風景に変わり、樹脂の裏側が鏡に映し出されむき出しになる事で、作品の別の顔が見える。シリーズのタイトルはこのことを示している。これらの作品は全て抽象概念のコンセプトを持つ。この作家はこれらの作品は主題そのものよりも、制作の過程が大切だと言う。それは人の努力であり、そして日記の入り口のようなものかもしれないと作家は言う。多くの人は一つ以上の顔を持つ。ラスター氏はこの作品の中で自分自身が鏡にわずかに映し出されるのを見て作品を身近に感じることが出来ると言う。鏡によって、見る者は作品の中へと引き込まれ作品の一部となる。シルケは文学や哲学から大きく影響を受けているが、鏡に映る像は実像か虚像かわからないという感覚はプラトンの洞窟の比喩から大きな影響を受けていて、多くの人々は与えられた世界に幸せを感じていないと彼女は作品で表現する。私たちは皆実像と虚像の中で生きていて、少なくとも二つの顔を持ち合わせている。

 

 

 

Leave a reply